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『頚椎手術の除圧固定術(前方アプローチ)と椎弓形成術(後方アプローチ)の違い』

リハビリスタッフ向け
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こんにちは!

運動器専門のリハビリスタッフです!!

いつもお世話になります。

今回は、『頚椎手術の除圧固定術(前方アプローチ)と椎弓形成術(後方アプローチ)の違い』について解説させていただきます。



◆頚椎症性脊髄症とは

頚椎症性脊髄症は、頚椎脊柱管の狭い状態で頚椎の加齢性変化による脊髄圧迫に不安定性や外傷が加わり、脊髄麻痺を発症する疾患の総称とされています。

●症状

・四肢のしびれ感(両上肢のみも含む)

・手指の巧緻運動障害(箸が不自由、ボタンかけが不自由など)

・歩行障害(小走り、階段の降り困難など)

・膀胱障害(頻尿、失禁など)

●画像診断

・単純X線像で、椎間狭小、椎体後方骨棘、発育性脊柱管狭窄を認めるもの

・単純X 線像でみられる病変部位で、MRI、CT、または脊髄造影像上、脊髄圧迫所見を認める。

⇒診断の目安として、症状・症候より予想される脊髄責任病巣高位と画像所見の圧迫病変部位が一致する

◆頚椎手術の歴史

頚椎手術の多くは脊髄が周辺組織により圧迫を受け、脊髄症を生じている際に、脊髄への圧を減ずるために行われます。

頚椎手術の歴史としては前方除圧固定術が1958年に海外にて報告されております。

・Smith-Robinson法(Smith GW:JBJS.1958)

・Cloward法(Cloward RB:J Neurosurg.1958)

そして後方アプローチの代表例である、椎弓形成術は日本が世界に発信したとされております。(桐田良人.1972)

頚椎症性脊髄症の治療は日本が世界をリードしているとされており、日本人による海外雑誌や学会発表での報告が多数あります。

エアードリルを用いた椎弓切除術の出現で頚椎手術治療に明かりが灯ったと言われております。

 



◆椎弓形成術(後方アプローチ)

椎弓形成術は椎弓に切れ込みを入れて開き、人工骨や自家骨を挿入し脊柱管を拡大し脊椎への圧迫を解除する手術法です。

椎弓形成術は大きく分けて方法が2つあります。

●両開き式

●片開き式

●両開き式椎弓形成術

両開き式椎弓形成術は後方からのアプローチにより棘突起を展開します。

そして左右の椎弓に側溝を作成し、椎弓を観音開きさせて起こします。

そして骨棘や黄色靭帯を削除し硬膜周囲を除圧します。

次に、人工骨や自家骨で蓋をするように縫合し新たな椎弓を形成することで、脊柱管を拡大させ、硬膜への圧迫を解除します。

両開き式椎弓形成術にも棘突起の処理方法がいくつかあります。

代表的なものが縦割法(黒川式.1982).片側進入椎弓両開き形成術(藤田浩二.1998)になります。

・縦割法では棘突起を縦に割り、左右に展開することで、頚椎後方筋群を温存した状態で手展開ができるため術侵襲が少なく済みます。

左右に展開した棘突起は最終的には元の位置に戻し縫合します。

ただ頚椎棘突起は小さいため、縦割するにはある程度、術者の技量が必要です。

・片側進入椎弓両開き形成術では片側から進入し、棘突起を反対側へ展開するため、左右の一側は侵襲が入り、反対側は侵襲が入らない状態となります。

反対側へ展開した棘突起は最終的には元の位置に戻し縫合します。

メリットとしては椎弓からの筋の剥離が一側で済む為、手術時間が短く、術中出血量が少ないとされています。

デメリットとしては左側筋群を棘間・棘上靭帯と、僧帽筋筋膜を項靭帯に強固に逢着し強力なtension bandを形成させる為、可動性がやや落ちるとされています。

●片開き法(平林式)1978

棘突起を展開した後に、椎弓の片側は側溝を作成し、反対側は切除し椎弓を開き脊柱管を拡大する。

骨棘や黄色靭帯を切除し、硬膜への圧迫が解除するのを確認し、人工骨または自家骨にて椎弓に蓋をするように縫合する。

最後に展開した棘突起を元の位置に戻し縫合する。

 



◆椎弓形成術(後方アプローチ)の片開き式と両開き式の術後成績比較

片開き式と両開き式の術後成績比較は様々な論文で報告されています。

諸家の報告をまとめると

・出血量、手術時間に有意差なし

・術後lamina closureやC5麻痺率が片開き法の方が若干高い

・両開き式の方が頚椎前彎は保たれる

とされています。

術後頚椎後彎に関するレビュー

(中島宏彰.関節外科.2013)

術後頚椎前彎角の減少術後頚椎後彎症例
片開き式両開き式片開き式両開き式
Orabi et al50%25%4%2%
Ratliff et al53%25%4%2%

 



◆頚椎前方除圧固定術(前方アプローチ)

頚椎前方除圧固定術(前方アプローチ)は大きく分けて2つの術式に分けられます。

ACDF:anterior cervical discectomy and fusion頚椎前方除圧固定術(椎間板切除

ACCF:anterior cervical corpectomy and fusion頚椎前方椎体亜全摘・固定術

前方からのアプローチでは頚椎前方から皮膚切開し、頚椎前方の筋群の筋間からアプローチし、椎体前面まで到達します。

その後、ACDFとACCFによって若干の違いはありますが、椎間板、または椎体を切除し、後縦靭帯を切除すると硬膜への圧迫を解除することができます。

脊髄(硬膜)の前方組織による病変により脊髄症を生じている場合、特に適応になりやすい。

ACDF:anterior cervical discectomy and fusion頚椎前方除圧固定術(椎間板切除

discectomyは文字通り椎間板切除ですので、椎体前面まで到達後、椎間板を切除します。

その後、後縦靭帯を切除すると硬膜への圧迫を解除することができます。

椎間板を切除した箇所は、移植骨やcageを挿入します。

cageには人工骨や自家骨を充填し、上下椎体と骨癒合しやすい状態にしておきます。

Cageの機種や術者によりますが、その後、上下椎体をプレートで固定します。(プレート固定をしない場合もある)

〈特徴〉

・狭い椎間からのアプローチ

・椎間板ヘルニア・骨棘・分節型OPLL(後縦靭帯骨化症)に有効

ACCF:anterior cervical corpectomy and fusion頚椎前方椎体亜全摘・固定術

corpectomyは椎体亜全摘ですので、椎体前面まで到達後、椎体を概ね切除します。

その後、後縦靭帯を切除すると硬膜への圧迫を解除することができます。

椎体を切除した箇所は、自家椎体骨や柱のようなmesh cageを挿入します。

cageには人工骨や自家骨を充填し、上下椎体と骨癒合しやすい状態にしておきます。

cageの機種や術者によりますが、その後、上下椎体をプレートで固定します。(プレート固定をしない場合もある)

〈特徴〉

・椎体後方を広く除圧可能

・連続型OPLLや終板骨折など

ACDF、ACCFともに、前方のプレートとスクリューは骨癒合後に抜釘をすることもある。

 



◆除圧固定術(前方アプローチ)と椎弓形成術(後方アプローチ)の術後成績比較

除圧固定術(前方アプローチ)と椎弓形成術(後方アプローチ)の術後成績比較は多くの医師が論文で報告しています。

その中で1つ論文をご紹介します。

吉井俊貴:MB Orthop.2014

・JOAスコアで有意差を認めたのは上肢運動機能のみ(後方群改善率62.3%、前方群82.0%)

・前方の方が術後2年、3年、5年でのJOAスコアが良好

・VAS(軸性疼痛)は前方群1.6 後方群3.7 (P<0.05)

・前方の方が手術侵襲は大きいが機能成績は良好

ほとんどの術後成績の報告において、前方アプローチの方が、術後成績が良好という結果が得られているようです。

◆除圧固定術(前方アプローチ)と椎弓形成術(後方アプローチ)のメリットとデメリット

前方除圧固定術(前方アプローチ)

〈メリット〉

・椎間板ヘルニアなど前方病変に効果抜群

・筋の侵襲が少なく術後疼痛が軽い

〈デメリット〉

・椎体間を固定するため運動制限が生じる

・基本的には2椎間までしか対応できない(3椎間も術者により可)

椎弓形成術(後方アプローチ)

〈メリット〉

・病変が多椎間にも適応可能

・黄色靭帯など後方組織が病因の場合に適応

〈デメリット〉

・術後後彎化する可能性あり (前彎が保たれている場合に適応)

・軸性疼痛やC5麻痺などの術後症状の可能性あり

術後成績比較では前方アプローチの方が成績良好と報告している先生がほとんどです。

よって、除圧固定術(前方アプローチ)が適応でない場合は、椎弓形成術(後方アプローチ)を行うという医師も少なくありません。

除圧固定術(前方アプローチ)では多椎間の手術は、術後に頚椎のROM制限が強くなるため適していません。

また、脊髄(硬膜)の後方組織(黄色靭帯など)の病変の場合は後方アプローチの方が適しています。

今回は、『頚椎手術の除圧固定術(前方アプローチ)と椎弓形成術(後方アプローチ)の違い』

について解説させていただきました。

 『頚椎症性脊髄症を放置するとどうなる?~頚椎症性脊髄症 診療ガイドライン2020より~』

 



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