こんにちは!
運動器専門のリハビリスタッフです!!
いつもお世話になります。
今回は、『ジャンパー膝(膝蓋腱炎)に対する多血小板血漿(PRP)療法の効果は?』
について解説させていただきます。
ジャンパー膝(膝蓋腱炎)はBlazinaら(1973年)によってはじめて定義されております。
ジャンプや着地、ダッシュ等の動作が頻繁に繰り返され、膝伸展機構(大腿四頭筋―膝蓋骨―膝蓋腱―脛骨結節)に過度の負荷がかかることで引き起こされる慢性障害とされています。
症状としては膝に痛みがあらわれますが、特に膝蓋骨の下方に圧痛を認めることが多いです。
バスケットボールやバレーボールなどの跳躍動作を繰り返すスポーツに多いoveruse syndromeのうちのひとつとされています。
ジャンパー膝の発症要因としては様々ですが、特に、大腿四頭筋の柔軟性低下や優れた跳躍能力等の特徴がみられることが報告されています(Henk W,et al:Br J Sports Med.2011)。
そんな中、2019年に、膝蓋腱症(ジャンパー膝)のアスリートに、platelet-rich plasma:PRP療法(多血小板血漿)の効果を検証した論文が海外で報告されております。
この論文の検証結果が気になるところであります。
◆PRP(多血小板血漿)療法とは
platelet-rich plasma:PRP療法(多血小板血漿)とは、自分の血液を採取して、特殊な技術を駆使し、血液中の血小板が多く含まれる部分のみを抽出して、PRP(多血小板血漿)を作成します。
そして、自分の傷んでいる部位に注射することで組織の修復や関節炎の症状を軽減させ、早期治癒を図る再生医療であります。
早期の競技復帰をめざしたプロスポーツ選手も、多血小板血漿(PRP)療法を行っていることもあります。
ヨーロッパやアメリカでは、自己治癒力をサポートする治療として頻繁に行われているようです。
現時点(2022年7月)では多血小板血漿(PRP)療法は自費診療になりますので、少し治療費は高価になります。
◆論文紹介
Randomized Controlled Trial
Am J Sports Med (IF: 6.2; Q1)
. 2019 Jun;47(7):1654-1661.
doi: 10.1177/0363546519837954. Epub 2019 Apr 30.
Platelet-Rich Plasma for Patellar Tendinopathy: A Randomized Controlled Trial of Leukocyte-Rich PRP or Leukocyte-Poor PRP Versus Saline
膝蓋腱症に対する多血小板血漿。白血球が豊富なPRP(多血小板血漿)または白血球が少ないPRP(多血小板血漿)対生理食塩水の無作為化対照試験
Alex Scott 1, Robert F LaPrade 2, Kimberly G Harmon 3, Giuseppe Filardo 4, Elizaveta Kon 5, Stefano Della Villa 6, Roald Bahr 7 8, Havard Moksnes 7 8, Thomas Torgalsen 7, Jenny Lee 1, Jason L Dragoo 9, Lars Engebretsen 7 8 10
Affiliations expand
- PMID: 31038979 DOI: 10.1177/0363546519837954
Abstract
Background: A small number of randomized controlled trials have found ultrasound-guided injection of platelet-rich plasma (PRP) to be no more effective than saline for several tendinopathies; limited information exists for patellar tendinopathy. In addition, different PRP formulations that produce varying concentrations of leukocytes have not been directly compared for patellar tendinopathy.
概要
背景 少数の無作為化比較試験で、多血小板血漿(PRP)の超音波ガイド下注入は、いくつかの腱障害に対して生理食塩水と変わらない効果があることが判明している;膝蓋腱障害に関しては限られた情報しかない。さらに、白血球の濃度が異なる様々なPRP製剤は、膝蓋腱症について直接比較されたことはない。
Purpose/hypothesis: To determine if a single ultrasound-guided PRP injection, either leukocyte-rich PRP (LR-PRP) or leukocyte-poor PRP (LP-PRP), was superior to saline injection for the treatment of patellar tendinopathy. The null hypothesis was that no treatment would be superior to another for the treatment of patellar tendinopathy.
目的・仮説 膝蓋腱症の治療において、超音波ガイド下PRP(多血小板血漿)注射白血球が豊富なPRP(LR-PRP)または白血球が少ないPRP(LP-PRP))が、生理食塩水注射よりも優れているかどうかを判断することである。帰無仮説は、膝蓋腱症の治療において、どの治療法も他の治療法より優れていない、というものであった。
Study design: Randomized controlled trial; Level of evidence, 1.
研究デザイン 無作為化比較試験;エビデンスレベル、1。
Methods: Athletes with patellar tendinopathy for ≥6 months (Blazina stage IIIB) were assessed for eligibility in a multisite single-blind controlled trial. There were 3 injection arms: LR-PRP, LP-PRP, and saline. Patients received a single ultrasound-guided injection, followed by 6 weeks of supervised rehabilitation (heavy slow resistance training, concentric and eccentric, 3 times per week). Outcome measures-Victorian Institute of Sport Assessment (patellar; VISA-P), pain during activity, and global rating of change-were assessed at 6 and 12 weeks and 6 and 12 months. VISA-P score at 12 weeks was the primary outcome. Fifty-seven patients (19 in each group) were included in an intention-to-treat analysis. Secondary outcome measures included pain during activity and patients’ global rating of change.
方法 6ヵ月以上の膝蓋腱症(BlazinaステージIIIB)を有するアスリートを対象に、多施設共同単盲検比較試験で適格性を評価した。3つの注入様式があった。LR-PRP(白血球が豊富なPRP)、LP-PRP(白血球が少ないPRP)、生理食塩水の3つの注射群に分けられた。患者には超音波ガイド下での注射が1回行われ、その後、6週間の監視下でのリハビリテーション(週3回、コンセントリックおよびエキセントリックの重いスローレストレーニング)が行われた。6週間後、12週間後、6ヶ月後、12ヶ月後に、Victorian Institute of Sport Assessment (patellar; VISA-P) 、活動時の痛み、変化の全体評価(global rating of change)のアウトカム評価を行った。12週目のVISA-Pスコアが主要評価項目であった。57名の患者(各群19名)がintention-to-treat分析に組み入れられた。副次的評価項目は、活動時の痛みと患者の変化に対する全体的評価であった。
Results: Study retention was 93% at 12 weeks and 79% after 1 year. There was no significant difference in mean change in VISA-P score, pain, or global rating of change among the 3 treatment groups at 12 weeks or any other time point. After 1 year, the mean (SD) outcomes for the LR-PRP, LP-PRP, and saline groups were as follows, respectively: VISA-P-58 (29), 71 (20), and 80 (18); pain-4.0 (2.4), 2.4 (2.3), and 2.0 (1.9); global rating of change-4.7 (1.6), 5.6 (1.0), and 5.7 (1.2) ( P > .05 for all outcomes).
結果 研究継続率は12週時点で93%、1年後で79%であった。VISA-Pスコアの平均変化量、疼痛、変化に対する全体的評価については、12週時点およびその他の時点において、3治療群間で有意差は認められなかった。1年後のLR-PRP(白血球が豊富なPRP)群、LP-PRP(白血球が少ないPRP)群、生理食塩水群の平均(SD)アウトカムはそれぞれ以下の通りであった。VISA-P-58 (29), 71 (20), 80 (18); 痛み-4.0 (2.4), 2.4 (2.3), 2.0 (1.9); グローバル評価変化-4.7 (1.6), 5.6 (1.0), 5.7 (1.2) ( 全ての結果についてP > .05).
◆論文の結論
Conclusion: Combined with an exercise-based rehabilitation program, a single injection of LR-PRP or LP-PRP was no more effective than saline for the improvement of patellar tendinopathy symptoms.
結論 LR-PRP(白血球が豊富なPRP)またはLP-PRP(白血球が少ないPRP)の単回注射は、膝蓋腱症の症状改善に対して生理食塩水よりも有効でなかった。
◆まとめ
上記論文では、膝蓋腱症(ジャンパー膝)のアスリート57名に対して超音波ガイド下でのPRP(多血小板血漿)注射の効果を検証しております。
LR-PRP(白血球が豊富なPRP)、LP-PRP(白血球が少ないPRP)、生理食塩水の3群(それぞれ17名)に分けられ、6週間のリハビリテーションプログラムと併用で治療されております。
治療から6週間後、12週間後、6ヶ月後、12ヶ月後に、Victorian Institute of Sport Assessment (patellar; VISA-P) 、活動時の痛み、変化の全体評価(global rating of change)によって評価されております。
結果として、VISA-Pスコアの平均変化量、疼痛、変化に対する全体的評価については、12週時点およびその他の時点において、3治療群間で有意差は認められなかったそうです。
上記論文の結果を踏まえると、 膝蓋腱症(ジャンパー膝)に対するPRP(多血小板血漿)療法は、生理食塩水注射と有意差がないことからも、効果は不十分であるということが言えると思われます。
今回は、『ジャンパー膝(膝蓋腱炎)に対する多血小板血漿(PRP)療法の効果は?』
について解説させていただきました。