こんにちは!
運動器専門のリハビリスタッフです!!
いつもお世話になります。
今回は、『胸郭出口症候群に対して手術と理学療法どちらが効果的か?』
について解説させていただきます。
胸郭出口症候群(Thoracic Outlet Syndrome:TOS)は神経障害と血流障害に基づく上肢痛、上肢のしびれ、頚肩腕痛を生じる疾患の一つです。
つり革につかまる時や、洗濯の物干しの時など、腕を挙げる動作で上肢のしびれや肩や腕、肩甲骨周囲の痛みが生じます。
また、前腕尺側、手の小指側に沿って痛みや、しびれなどの感覚障害に加え、手の握力低下と巧緻動作がしにくいなどの運動麻痺の症状を呈することもあります。
なで肩の女性や、重いものを持ち運ぶ労働者で多いのが特徴です。
腕神経叢(第5頚神経から第8頚神経と第1胸神経から形成される)と鎖骨下動脈は、
1.前斜角筋と中斜角筋の間
2.鎖骨と第1肋骨の間の肋鎖間隙
3.小胸筋の肩甲骨烏口突起停止部の後方
を走行しますが、それぞれの部位で絞扼や圧迫される可能性があります。
絞扼部位によって呼び名が変わりますが、斜角筋症候群、肋鎖症候群、小胸筋症候群(過外転症候群)などを総称して胸郭出口症候群とまとめられています。
胸郭出口症候群(TOS)は神経性(nTOS)、動脈性(aTOS)、および静脈性(vTOS)の3つに分類され、これらの内、最も多いのは神経性(nTOS)で90%以上を占めるといわれております。
胸郭出口症候群の診断としては、以下の整形外科的テストがあります。
・Adson test(アドソンテスト)陽性
腕のしびれや痛みのある側に顔を向けて、そのまま首を反らせ、深呼吸を行なわせると鎖骨下動脈が圧迫され、手首のところの橈骨動脈の脈が弱くなるか触れなくなります。
・Wright test(ライトテスト)陽性
座位で両肩関節90度外転、90度外旋、肘90度屈曲位をとらせると、手首のところの橈骨動脈の脈が弱くなるか触れなくなり、手の血行がなくなり白くなります
・Roots test(ルーステスト)陽性
また、同じ肢位で両手の指を3分間屈伸させると、手指のしびれ、前腕のだるさのため持続ができず、途中で腕を降ろしてしまいます
・Eden test(エデンテスト)陽性
座位で胸を張らせ、両肩を後下方に引かせると、手首のところの橈骨動脈の脈が弱くなるか触れなくなります
・Morley test(モーレーテスト)陽性
鎖骨上窩で腕神経叢を圧迫することで、上肢や胸のあたりにしびれや痛みが生じます。
治療としては、保存療法では運動療法、装具療法、内服治療などがあり、手術においては第1肋骨切除術、小胸筋腱の切離術、前斜角筋および中斜角筋切離などがあります。
そんな中、2019年に、胸郭出口症候群に対する手術および理学療法の有効性について検証した論文が海外で報告されております。
この論文の検証結果が気になるところですね。
◆論文紹介
Observational Study
J Vasc Surg (IF: 4.27; Q2)
. 2019 Sep;70(3):832-841.
doi: 10.1016/j.jvs.2018.12.027. Epub 2019 Mar 7.
Physical therapy management, surgical treatment, and patient-reported outcomes measures in a prospective observational cohort of patients with neurogenic thoracic outlet syndrome
神経因性胸郭出口症候群患者の前向き観察コホートにおける理学療法管理、外科的治療、および患者報告アウトカム指標
Joshua Balderman 1, Ahmmad A Abuirqeba 1, Lindsay Eichaker 2, Cassandra Pate 2, Jeanne A Earley 2, Michael M Bottros 3, Senthil N Jayarajan 1, Robert W Thompson 4
Affiliations expand
- PMID: 30852035 DOI: 10.1016/j.jvs.2018.12.027
Abstract
Objective: To assess the results of physical therapy management and surgical treatment in a prospective observational cohort of patients with neurogenic thoracic outlet syndrome (NTOS) using patient-reported outcomes measures.
概要
目的 神経因性胸郭出口症候群(NTOS)患者の前向き観察コホートにおいて、理学療法管理および外科的治療の結果を、患者報告型アウトカム指標を用いて評価すること。
Methods: Of 183 new patient referrals from July 1 to December 31, 2015, 150 (82%) met the established clinical diagnostic criteria for NTOS. All patients underwent an initial 6-week physical therapy trial. Those with symptom improvement continued physical therapy, and the remainder underwent surgery (supraclavicular decompression with or without pectoralis minor tenotomy). Pretreatment factors and 7 patient-reported outcomes measures were compared between the physical therapy and surgery groups using t-tests and χ2 analyses. Follow-up results were assessed by changes in 11-item version of Disability of the Arm, Shoulder, and Hand (QuickDASH) scores and patient-rated outcomes.
方法 2015年7月1日から12月31日までの新規患者紹介183例のうち、150例(82%)がNTOSの確立された臨床診断基準を満たした。全患者に初回 6 週間の理学療法試験を実施した。症状が改善した人は理学療法を継続し、残りは手術(小胸筋腱切開を伴うまたは伴わない鎖骨上減圧術)を受けた。治療前の因子と7つの患者報告アウトカム指標を,t検定とχ2分析を用いて理学療法群と手術群の間で比較した.フォローアップの結果は、11項目の腕・肩・手の障害バージョン(QuickDASH)スコアの変化と患者評価のアウトカムで評価した。
Results: Of the 150 patients, 20 (13%) declined further treatment or follow-up, 40 (27%) obtained satisfactory improvement with physical therapy alone, and 90 (60%) underwent surgery. Slight differences were found between the physical therapy and surgery groups in the mean ± standard error degree of local tenderness to palpation (1.7 ± 0.1 vs 2.0 ± 0.1; P = .032), the number of positive clinical diagnostic criteria (9.0 ± 0.3 vs 10.1 ± 0.1; P = .001), Cervical-Brachial Symptom Questionnaire scores (68.0 ± 4.1 vs 78.0 ± 2.7; P = .045), and Short-Form 12-item physical quality-of-life scores (35.6 ± 1.5 vs 32.0 ± 0.8; P = .019) but not other pretreatment factors. During follow-up (median, 21.1 months for physical therapy and 12.0 months for surgery), the mean change in QuickDASH scores for physical therapy was -15.6 ± 3.0 (-29.5% ± 5.7%) compared with -29.8 ± 2.4 (-47.9% ± 3.6%) for surgery (P = .001). The patient-rated outcomes for surgery were excellent for 27%, good for 36%, fair for 26%, and poor for 11%, with a strong correlation between the percentage of decline in the QuickDASH score and patient-rated outcomes (P < .0001).
結果 150名の患者のうち、20名(13%)がさらなる治療やフォローアップを拒否し、40名(27%)が理学療法のみで満足のいく改善を得て、90名(60%)が手術を受けた。理学療法群と手術群の間には,触診による局所圧痛の平均±標準誤差の程度(1.7 ± 0.1 vs 2.0 ± 0.1; P = .032),臨床診断基準の陽性数(9.0 ± 0.3 vs 10.1 ± 0.1)にわずかな差がみられただけであった.頸肩腕症状質問票スコア(68.0 ± 4.1 vs 78.0 ± 2.7; P = 0.045)、および短形12項目身体QOLスコア(35.6 ± 1.5 vs 32.0 ± 0.8; P = 0.019)だったが、他の治療前の因子には該当しなかった。追跡期間中(中央値,理学療法では 21.1 ヵ月,手術では 12.0 ヵ月)の QuickDASH スコアの平均変化は,理学療法では -15.6 ± 3.0(- 29.5% ± 5.7%)だったのに対し,手術では -29.8 ± 2.4(- 47.9% ± 3.6%)だった(p=0.001).手術の患者評価結果は、27%が優、36%が良、26%が可、11%が不可であり、QuickDASHスコアの低下率と患者評価結果の間には強い相関があった(P < 0.0001)。
◆論文の結論
Conclusions: The present study has demonstrated contemporary outcomes for physical therapy and surgery in a well-studied cohort of patients with NTOS, reinforcing that surgery can be effective when physical therapy is insufficient, even with substantial pretreatment disability. Substantial symptom improvement can be expected for ∼90% of patients after surgery for NTOS, with treatment outcomes accurately reflected by changes in QuickDASH scores. Within this cohort, it was difficult to identify specific predictive factors for individuals most likely to benefit from physical therapy alone vs surgery.
結論 本研究では、理学療法と手術がNTOS患者の研究対象集団において同時期に有効であることを示し、理学療法が不十分な場合には、治療前にかなりの障害があっても手術が有効であることを補強するものである。NTOSの手術後、約90%の患者に大幅な症状の改善が期待でき、治療成果はQuickDASHスコアの変化として正確に反映される。このコホートでは、理学療法単独と手術のどちらが効果的か、特定の予測因子を特定することは困難であった。
◆まとめ
上記論文では神経性胸郭出口症候群150例に対して理学療法と手術の治療効果を検証しております。
全患者に6週間の理学療法を実施し、症状が改善すれば理学療法を継続し、残りは手術(小胸筋腱切開および鎖骨上部減圧術)を受けております。
触診による局所圧痛、臨床診断基準の陽性数、Cervical-Brachial Symptom Questionnaire scores(頸肩腕症状質問票スコア)、SF-12QOLスコア、QuickDASH(上肢機能評価質問票) スコアの変化など、治療前の因子と7つの患者立脚型の質問票を用いて成績を評価しております。
※Cervical-Brachial Symptom Questionnaire scores(頸肩腕症状質問票スコア):高いほど障害が大きい
※SF-12QOLスコア:数値が高いほどより健康な状態
※QuickDASH スコア(上肢機能評価質問票):数値が高いほど、より障害が大きい
結果として20名(13%)が治療を中断し、40名(27%)が理学療法のみで満足のいく改善を得て、90名(60%)が手術を受けたとのことです。
理学療法群と手術群の間には,触診による局所圧痛、臨床診断基準の陽性数はわずかな差がみられただけだそうです。
頸肩腕症状質問票スコアおよびSF-12QOLスコアは有意に理学療法群で良好であったようです。
その他、治療前の因子には差がなかったとのことです。
QuickDASH スコアの平均変化は,理学療法群、手術群ともに改善しているが、手術群の方が有意に改善していたようです。
手術の患者自身の評価結果は、27%が優、36%が良、26%が可、11%が不可であり、QuickDASHスコアの改善率と患者立脚型評価の間には強い相関があったようです。
上記論文の結果を踏まえると、神経性胸郭出口症候群に対して、理学療法も手術も成績が良好であることが分かります。
また手術によってQuickDASH(上肢機能評価質問票) スコアの変化率が高いことから、理学療法の効果が乏しい例において、手術の効果もある程度期待できそうです。
また、患者立脚型評価においても89%以上が満足のいく成績となっています。
今回は、『胸郭出口症候群に対して手術と理学療法どちらが効果的か?』
について解説させていただきました。