こんにちは!
運動器専門のリハビリスタッフです!!
いつもお世話になります。
今回は、『腱板断裂は〇〇筋が断裂すると手が挙がらない』について解説させていただきます。
◆腱板断裂
腱板は棘上筋、棘下筋、小円筋、肩甲下筋の4つの筋で構成されています。
腱板断裂は50~60代で増加していき、60代の25%、70代の45%は腱板断裂があると報告されています(症状の有無は関係なし)。
また、腱板断裂患者の約60~70%は無症候性(症状がない)といわれております。
(Yamamoto A:J Shoulder Elbow Surg.2011)
腱板断裂の代表的な症状は上肢の挙上機能不全ですが、痛みに関しては、ある人とない人がいらっしゃいます。
腱板断裂の受傷機転としては主に2つあります。
●外傷による腱板断裂
●退行変性(老化)による腱板断裂
◆腱板断裂の断裂筋の違いによる臨床症状の差
広範囲にわたる腱板断裂は自動挙上不全の症状がでやすいです。
広範囲腱板断裂において断裂の大きさについて着目された報告は多いですが、断裂部位による検討は少ないです。
下記の論文では腱板断裂の筋、部位による臨床症状に違いを検討しております。自動挙上障害の危険因子が明らかになることで、広範囲腱板断裂に対する治療方針や予後予測が成り立ちますので、興味深い内容となっていますのでご紹介します。
◆論文紹介
(松村 昇ら:腱板断裂部位と肩関節可動域制限の関連,関節外科.2012)
上記の論文では、広範囲腱板断裂患者の断裂筋による臨床症状の違いを検討している。
臨床症状は関節可動域(ROM:Range of motion)、疼痛(VAS:Visual analogue scale)を検討している。
対象は腱板断裂患者100例100肩(男性50例、女性50例、平均年齢67.7歳±8.2歳)
回旋筋腱板を構成する4つの筋のうち肩甲下筋を上部と下部に分け、棘上筋、棘下筋、小円筋、肩甲下筋上部、肩甲下筋下部の合計5区画で検討しております。
腱板断裂の有無はMRIで腱板断裂の有無や腱板の脂肪変性度合いから判断されております
対象は2区画以上の腱板断裂のある者としています。
この研究では肩甲下筋を2区画としています。
肩甲下筋は他の腱板筋より容量が大きく、棘下筋と小胸筋の合計に相当します。
また、肩甲下筋上部は小結節に停止するのに対し、下部は筋線維が触接上腕骨へ付着しており、上部と下部は解剖学的に異なっていることから2区画に分類している。
腱板断裂を5つのTypeに分類され上記の図のような割合となりました。
TypeA:棘上筋腱+肩甲下筋腱上部(8肩)
TypeB:棘上筋腱+肩甲下筋腱全幅(20肩)
TypeC:棘上筋腱+肩甲下筋腱上部+棘下筋腱(22肩)
TypeD:棘上筋腱+棘下筋腱(35肩)
TypeE:棘上筋腱+棘下筋腱+小円筋腱(15肩)
疼痛(VAS:Visual analogue scale)は5つ全てのTypeにおいて有意差はなく50mm前後であった。
自動挙上可動域が90%以下の割合と挙上角度は上記の2つの図のようになりました。
TypeA: 0% (棘上筋腱+肩甲下筋腱上部)
TypeB: 80%(棘上筋腱+肩甲下筋腱全幅)
TypeC: 45%(棘上筋腱+肩甲下筋腱上部+棘下筋腱)
TypeD: 3%(棘上筋腱+棘下筋腱)
TypeE: 33%(棘上筋腱+棘下筋腱+小円筋腱)
肩甲下筋腱を含む3区画以上の腱板断裂では自動挙上90°以上が不可になる可能性が高い。
肩甲下筋は内旋への関与だけでなく挙上にも重要な筋とされています。
自動下垂位(1st)外旋可動域では棘下筋腱と小胸筋腱の断裂と関連している。
棘下筋腱の断裂で自動下垂位(1st)外旋可動域が低下し、小胸筋腱の断裂でさらに悪化することがわかります。
自動前方挙上可動域 | 自動下垂位外旋可動域 | 結帯動作(内旋可動域) | |
Type A | 177.5±7.1° | 60.0±16.9° | L1レベル |
Type B | 83.0±51.8° | 52.0±20.9° | L2レベル |
Type C | 115.5±61.6° | 24.5±23.0° | L2レベル |
Type D | 176.0±20.5° | 26.3±20.9° | Th10レベル |
Type E | 140.7±53.6° | 0.7±2.6° | Th11レベル |
肩関節内旋可動域(結帯動作)は肩甲下筋腱断裂が関与しているが、5typeともそれなりに内旋可動域(結帯動作)は保たれている。
以上のことから、腱板構成筋の5区画のうち、肩甲下筋を含む3区画以上の断裂が、自動挙上低下の期間因子となることがわかっております。
とくに肩甲下筋の断裂は挙上障害の重要な因子となっております。
肩甲下筋を含む3区画以上の断裂になると保存療法での挙上能力の改善は厳しいかもしれませんね。
リハビリの際はMRIや理学所見で腱板断裂部位を確認し、上記のデータと照らし合わせると機能予後が推測しやすくなると思われます。
今回は、『腱板断裂は〇〇筋が断裂すると手が挙がらない』について解説させていただきました。