こんにちは!
運動器専門のリハビリスタッフです!!
いつもお世話になります。
今回は、『鵞足炎に対して多血小板血漿(PRP)療法は効果があるのか?』
について解説させていただきます。
鵞足とは脛骨内側に停止している3つの腱が鵞鳥の足のように見えることから「鵞足」と呼ばれています。
鵞足は炎症を起こすことがあり(鵞足炎)、変形性膝関節症(膝OA)やスポーツ傷害で好発するとされています。
鵞足炎は大きく分けると「鵞足筋腱炎」と「鵞足包炎」に大別されます。
鵞足と内側側副靭帯の間には鵞足包が存在しております。
どちらの病態も鵞足筋付着部や鵞足包への繰り返される摩擦や伸張ストレスが原因となり痛みを引き起こします。
◆鵞足構成筋
●縫工筋
起始:上前腸骨棘
停止:脛骨粗面内側の鵞足
作用:股関節内転・外転・外旋、膝関節屈曲・内旋
神経支配:大腿神経(L2-L4)
●半腱様筋
起始:坐骨結節と仙結節靭帯
停止:脛骨粗面内側の鵞足
作用:股関節内転・伸展、膝関節屈曲・内旋
神経支配:脛骨神経(L5-S2)
●薄筋
起始:恥骨結合下方の恥骨下枝
停止:脛骨粗面内側の鵞足
作用:股関節内転・屈曲、膝関節屈曲・内旋
神経支配:閉鎖神経(L2-L4)
そんな中、2021年に、鵞足炎に対して多血小板血漿(PRP)療法の有効性を検証している論文が海外で報告されております。
この論文の検証結果が気になるところです。
◆PRP(多血小板血漿)療法とは
platelet-rich plasma:PRP療法(多血小板血漿)とは、自分の血液を採取して、特殊な技術を駆使し、血液中の血小板が多く含まれる部分のみを抽出して、PRP(多血小板血漿)を作成します。
そして、自分の傷んでいる部位に注射することで組織の修復や関節炎の症状を軽減させ、早期治癒を図る再生医療であります。
早期の競技復帰をめざしたプロスポーツ選手も、多血小板血漿(PRP)療法を行っていることもあります。
ヨーロッパやアメリカでは、自己治癒力をサポートする治療として頻繁に行われているようです。
現時点(2022年11月)では多血小板血漿(PRP)療法は自費診療になりますので、少し治療費は高価になります。
◆論文紹介
Randomized Controlled Trial
Transfus Apher Sci (IF: 1.76; Q4)
. 2021 Jun;60(3):103048.
doi: 10.1016/j.transci.2020.103048. Epub 2021 Jan 27.
Effects of ultrasound guided leukocyte-rich platelet-rich plasma (LR-PRP) injection in patients with pes anserinus tendinobursitis
鵞足炎患者における超音波ガイド下白血球含有血小板含有血漿(LR-PRP)注入の効果について
Çağlar Karabaş 1, Havva Talay Çaliş 2, Ulaş Serkan Topaloğlu 3, Çiğdem Karakükçü 4
Affiliations expand
- PMID: 33574009 DOI: 10.1016/j.transci.2020.103048
Abstract
Objectives: To demonstrate the efficacy and safety of ultrasound guided leukocyte-rich platelet-rich plasma (LR-PRP) injection in patients with pes anserinus tendinobursitis (PATB).
概要
目的 鵞足腱滑液包炎(PATB)患者に対する超音波ガイド下白血球含有多血小板血漿(LR-PRP)注入の有効性と安全性を実証することである。
Methods: A prospective, randomized and single-blinded study of 60 patients with PATB were randomly assigned into 2 groups. Whereas 2 mL LR-PRP injection was applied to one grup, once accompanied by ultrasonography (USG), 2 mL LR-PRP injection was applied to the other group accompanied by USG twice with a one-week interval. Visual Analog Scale (VAS), Western Ontario and McMaster Universities Osteoarthritis Index (WOMAC), 6-minute walking test (6MWT), Likert Scale were evaluated pre-treatment, at the 4th and 12th weeks after treatment.
方法 PATB(鵞足腱滑液包炎)患者60名を無作為に2群に分け、プロスペクティブ・無作為・単盲検試験を行った。一方は超音波検査(USG)を伴う2mLのPRP注射を1回、もう一方は1週間の間隔を空けて2回、USGを伴う2mLのPRP注射を行った。Visual Analog Scale (VAS), Western Ontario and McMaster Universities Osteoarthritis Index (WOMAC), 6-minute walking test (6MWT), Likert Scaleを治療前、治療後4週目、12週目に評価した。
Results: There was no statistical difference between the two groups in terms of age, gender, body mass index, duration of symptoms, affected side. When both groups are compared within themselves before and after treatment, there was a significant improvement in all VAS, in all WOMAC subgroups, 6MWT, at the 4th and 12th weeks after treatment. When the two groups are compared with each other, there was no statistical difference. In addition, when all patients were evaluated with Likert scale in the 12th week after treatment, complete healing in 22(36.7 %) patients, significant relief in 25(41.7 %) patients, mild relief in 4(6.7 %) patients, 5(8.3 %) same as before treatment patients, and worsened pain in 4(6.7 %) patients were seen.
結果 年齢、性別、肥満度、症状の持続期間、患側について、両群間に統計的な差はなかった。両群を治療前後で比較すると、すべてのVAS、すべてのWOMACサブグループ、6MWT、治療後4週目および12週目に有意な改善がみられた。両群を互いに比較した場合、統計的な差は見られなかった。また、治療後12週目に全症例をLikert scaleで評価したところ、完全治癒22(36.7 %)、有意な緩和25(41.7 %)、軽度緩和4(6.7 %)、治療前と同じ5(8.3 %)、痛みの悪化4(6.7 %)であり、治療後12週目に、全症例で、完全治癒、軽度緩和、同等、悪化の5段階で、治療前と同等の効果が認められた。
Conclusion: Both single-dose and double-dose local LR-PRP is a safe and effective treatment option for patients with PATB syndrome. We believe that once LR-PRP injection may be sufficient for the treatment efficacy in PATB.
◆論文の結論
LR-PRP の局所投与は、単回投与、二回投与ともに PATB 症候群の患者に対して安全で有効な治療法である。また,LR-PRPは1回の注射で十分な治療効果が得られると考えられる。
◆まとめ
上記論文では鵞足炎患者60名に対して、多血小板血漿注射(PRP注射)を1回打つ群と、1週間後に2回目を打つ群の2群に分けて、多血小板血漿(PRP療法)の効果を検証しております。
治療前、治療後4週目、治療後12週目にVAS(疼痛)、WOMAC(膝機能評価)、6分間歩行、Likert Scale(心理測定法)を測定しております。
結果として、2群ともに治療前と比較すると治療後4週目、12週目において、VAS、WOMACサブグループ、6分間歩行で有意な改善がみられたとのことです。
注射1回群と2回群の2群間での有意差は認めなかったようです。
また、治療後12週目のLikert scaleでの評価では、完全治癒22人(36.7 %)、有意な緩和25人(41.7 %)、軽度緩和4人(6.7 %)、治療前と同じ5人(8.3 %)、痛みの悪化4人(6.7 %)であったようです。
上記論文の結果を踏まえると、鵞足炎への多血小板血漿(PRP療法)は痛みや膝関節機能、歩行能力に対して有効であり、注射回数は1回で十分であるようです。
今後の展望としては、コントロール群との比較検証も気になるところではありますね。
今回は、『鵞足炎に対して多血小板血漿(PRP)療法は効果があるのか?』
について解説させていただきました。