こんにちは!
運動器専門のリハビリスタッフです!!
いつもお世話になります。
今回は、『総腓骨神経麻痺に対する最適な治療アプローチは?』
について解説させていただきます。
腓骨神経は膝関節の後方で坐骨神経から分岐し、膝外側にある腓骨頭の後ろを巻きつくように走行します。
その部分は、神経の移動性が乏しく、骨と皮膚・皮下組織の間に神経が存在するため、外部からの圧迫により麻痺が生じやすく、腓骨神経障害を起こすことがあります。
◆総腓骨神経麻痺の症状
下腿の外側から足背、足趾背側にかけて感覚が障害され、しびれや感覚鈍麻(感覚が鈍くなったり)が生じることがあります。
歩くとしびれが強くなり、歩けなくなることもあります。
足関節と足趾が背屈で出来ず、下垂足(drop foot)となると、スリッパがぬげやすかったり、つまづきやすくなります。
◆総腓骨神経麻痺の原因
最も多いのは、腓骨頭部(膝外側)の圧迫により生じるものとされています。下
肢の牽引などで背臥位(仰向け)に寝た姿勢が継続したり、ギプス固定をしている際に、腓骨頭部が後外側から圧迫されると起こります。
ガングリオンなどの腫瘤や、腫瘍、腓骨頭骨折や開放創や挫傷(ケガ)、その他の膝の外傷などによっても生じることがあるようです。
足を組んだり、きついストッキングをはくと、腓骨神経がつぶされ、神経麻痺を生じることもあります。
◆総腓骨神経麻痺の診断
下垂足などの背屈筋力低下を呈し、上記の感覚障害があり、ティネルサイン(神経傷害部をたたくとその支配領域に疼痛が放散する)があれば傷害部位が確定できます。
確定診断するには、筋電図検査、X線(レントゲン)検査、MRI検査、超音波検査などを状況に応じて行います。
◆総腓骨神経麻痺の治療
原因が明らかでないものや回復の可能性のあるものは保存的治療(圧迫の回避・除去、局所の安静、薬剤内服、運動療法など)をします。約3ヵ月ほど様子を見て回復しないものや麻痺が進行するものは手術(神経剥離、神経縫合、神経移植など)が必要になることがあります。
そんな中、2022年に、総腓骨神経麻痺に対して損傷機序別の最適な治療アプローチを検討した論文が海外で報告されております。
この論文の検証結果が気になるところですね。
◆論文紹介
Review
J Plast Reconstr Aesthet Surg (IF: 2.74; Q2)
. 2022 Feb;75(2):683-702.
doi: 10.1016/j.bjps.2021.09.040. Epub 2021 Oct 30.
Treatment approach to isolated common peroneal nerve palsy by mechanism of injury: Systematic review and meta-analysis of individual participants’ data
独立した総腓骨神経麻痺に対する損傷機序別の治療アプローチ。参加者個人データのシステマティックレビューとメタアナリシス
Kevin M Klifto 1, Said C Azoury 2, Caresse F Gurno 3, Elizabeth B Card 2, L Scott Levin 4, Stephen J Kovach 5
Affiliations expand
- PMID: 34801427 DOI: 10.1016/j.bjps.2021.09.040
Abstract
Background: We reviewed the individual participant data of patients who sustained isolated common peroneal nerve (CPN) injuries resulting in foot drop. Functional results were compared between eight interventions for CPN palsies to determine step-wise treatment approaches for the underlying mechanisms of nerve injury.
要旨
背景 総腓骨神経(CPN)損傷により下垂足になった患者の個人データをレビューした。神経損傷の根本的なメカニズムに対する段階的な治療アプローチを決定するために,CPN麻痺に対する8つの介入について機能的な結果を比較した.
Methods: PubMed, Embase, Cochrane Library, Web of Science, Scopus, and CINAHL databases were searched. PRISMA-IPD and Cochrane guidelines were followed in the data search. Eligible patients sustained isolated CPN injuries resulting in their foot drop. Patients were stratified by mechanisms of nerve injury, ages, duration of motor symptoms, and nerve defect/zone of injury sizes, and were compared by functional results (poor = 0, fair = 1, good = 2, excellent = 3), using meta-regression between interventions. Interventions evaluated were primary neurorrhaphy, neurolysis, nerve grafts, partial nerve transfer, neuromusculotendinous transfer, tendon transfer, ankle-foot orthosis (AFO), and arthrodesis.
方法 PubMed、Embase、Cochrane Library、Web of Science、Scopus、CINAHLの各データベースを検索した。データ検索はPRISMA-IPDとCochraneのガイドラインに従った。対象となる患者は、下垂足に起因する孤立性CPN損傷を受けた患者である。患者は、神経損傷のメカニズム、年齢、運動症状の期間、神経欠損/損傷ゾーンの大きさで層別化し、介入間のメタ回帰を用いて、機能的結果(不良=0、まあまあ=1、良好=2、優秀=3)により比較された。評価した介入は、一次神経切断術、神経剥離術、神経移植、部分神経移植、神経筋腱移植、腱移植、足関節装具(AFO)、関節固定術であった。
Results: One hundred and forty-four studies included 1284 patients published from 1985 through 2020. Transection/Cut: Excellent functional results following tendon transfer (OR: 126, 95%CI: 6.9, 2279.7, p=0.001), compared to AFO. Rupture/Avulsion: Excellent functional results following tendon transfer (OR: 73985359, 95%CI: 73985359, 73985359, p<0.001), nerve graft (OR: 4465917, 95%CI: 1288542, 15478276, p<0.001), and neuromusculotendinous transfer (OR: 42277348, 95%CI: 3001397, 595514030, p<0.001), compared to AFO. Traction/Stretch: Good functional results following tendon transfer (OR: 4.1, 95%CI: 1.17, 14.38, p=0.028), compared to AFO. Entrapment: Excellent functional results following neurolysis (OR: 4.6, 95%CI: 1.3, 16.6, p=0.019), compared to AFO.
結果 1985年から2020年までに発表された144の研究、1284人の患者を含む。断端/切断 :/AFOと比較して,腱移行術は優れた機能的結果を示した(OR: 126, 95%CI: 6.9, 2279.7, p=0.001)。破裂/剥離:腱移植(OR: 73985359, 95%CI: 73985359, p<0.001)、神経移植(OR: 4465917, 95%CI: 1288542, 15478276, p<0.001 )、および神経筋腱移植(OR: 42277348, 95%CI: 3001397, 595514030, p<0.001)はAFOと比べて優れた機能性を示しています。牽引/伸張:腱移行術は、AFOと比較して、機能的に良好な結果を示した(OR: 4.1, 95%CI: 1.17, 14.38, p=0.028).絞扼:神経剥離術は、AFOと比較して優れた機能的結果を示した(OR: 4.6, 95%CI: 1.3, 16.6, p=0.019).
◆論文の結論
Conclusions: Functional results may be optimized for treatments by the mechanism of nerve injury. Transection/Cut and Traction/Stretch had the best functional results following tendon transfer. Rupture/Avulsion had the best functional results following tendon transfer, nerve graft, or neuromusculotendinous transfer. Entrapment had the best functional results following neurolysis.
結論 機能的結果は、神経損傷のメカニズムによって治療法が最適化される可能性がある。断端/切断と牽引/伸張は腱移植後の機能的結果が最も良好であった。破裂/剥離は腱移植,神経移植,神経筋腱膜移植で最も良好な機能的結果を示した.神経剥離術では、絞扼が最も良好な機能的結果を示した。
◆まとめ
上記論文では総腓骨神経(CPN)損傷により下垂足になった患者のデータとして144研究、1284名を対象として、総腓骨神経損傷のメカニズム別に対しての8つの治療方法の効果について検討しております。
対象者は総腓骨神経損傷のメカニズム、年齢、運動症状の期間、神経欠損/損傷ゾーンの大きさで分類わけされております。
8つの治療方法は一次神経切断術、神経剥離術、神経移植、部分神経移植、神経筋腱移植、腱移植、足関節装具(AFO)、関節固定術であり、機能的結果を(不良=0、まあまあ=1、良好=2、優秀=3)で比較しています。
結果として、総腓骨神経損傷【断端/切断】は足関節装具(AFO)と比較して 腱移行術が有意に機能的結果を示したようです。
総腓骨神経損傷【破裂/剥離】は腱移植、神経移植、神経筋腱移植が足関節装具(AFO)と比べて有意に優れた機能性を示したようです。
総腓骨神経損傷【牽引/伸張】は腱移行術が足関節装具(AFO)と比較して、機能的に良好な結果を示したようです。
総腓骨神経損傷【絞扼】は神経剥離術が足関節装具(AFO)と比較して優れた機能的結果を示したようです。
上記論文の結果を踏まえると、総腓骨神経麻痺の損傷のメカニズムによって最適な治療方法が変わることがわかりますね。
【断端/切断】と【牽引/伸張】は腱移行術が最も機能的結果であり、【破裂/剥離】は腱移植,神経移植,神経筋腱膜移植が最も良好な機能的結果を示し、【絞扼】では神経剥離術が最も良好な機能的結果を示しました。
治療オプションは限られますが、足関節装具(AFO)以外の保存療法の治療成績についても気になるところですね。
今回は、『総腓骨神経麻痺に対する最適な治療アプローチは?』
について解説させていただきました。